恐るべし、テリブレ!
目が細いというだけでチーノと呼ばれてしまうような
コスタリカのあだ名事情(?)について前回書いた。
その流れで、コスタリカのあだ名の話をもう少し続けたい。
僕がいちばん笑ってしまったあだ名。
それは、「テリブレ」だ。
15年以上たったいまでもはっきり覚えている。
それは、僕が2004年に滞在した小さな農村の青年。
バイクを乗り回す彼の本名を僕は知らない。
テリブレは“Terrible”。
英語にもまったく同じ綴りと意味の単語がある。
発音は違うけど。
「恐ろしい」とか「ヒドい」を意味する形容詞だ。
日ごろは畑での重労働で生活の糧を得ている彼にとって、
オフロード用のバイクは単なる交通手段だけでなく、
ストレス発散の趣味でもあったのだろう。
僕という「チーノ」がいることを聞きつけた彼は、
ある週末にいきなり大きな排気音とともに僕の滞在先にやってきた。
「おれのバイクに載っけてやっから、街に繰り出そうぜ、チーノ!」
…というように熱烈な誘ってくれた。
もともと早口に違いない彼はすでに酔っぱらっているらしい。
スペイン語にまだ自信のない僕にはますます聞き取りにくい話しぶりだ。
間に入ってくれたのは友人のアロンソ。
テリブレが「チーノ」という言葉を発するたびに
「彼はハポネス(日本人)だ」 と訂正するという心配り。
さすがアロンソ。
それでもテリブレは構わず「チーノ」を連発していた。
その頃には僕はもう「チーノ」に慣れていたし、
テリブレにまったく悪意がないこともわかっていたので、
特に気になることもなかった。
「繰り出そうぜ」の誘いについては、
英語でぼそぼそとアロンソに相談してみた。
テリブレは英語が分からないようだから内緒話になる。
(ごめんな、テリブレ!)
「彼はかなり酔っていて危ないから行かないほうがいい」
それが、アロンソの的確な耳打ちだった。僕も同感。
そこで、テリブレの親切さに感謝しつつ丁重にお断りした。
彼は一度ではあきらめず、何度か同じやり取りが繰り返された。
しまいにテリブレも納得して、 「じゃ、またな」と言って爆音とともに去っていった。
ジャイアンのように強引だけど、心の底は優しい男。
これがテリブレに対するぼくの印象だ。
どのようないきさつでテリブレというあだ名が付いたのか、
ついぞ知る機会を逃してしまった。とても残念。
いつかまた会うときがあれば、
今度こそ一緒に繰り出して、ぜひ聞いてみたい。
ちなみにテリブレの「リ」は巻き舌で発音する。
ばったり再会してもいいように、巻き舌も練習しておくことにしよう。
僕はテリブレとのこの出会いを今も覚えている。
彼はチーノと会ったことなど覚えてないだろうなぁ。
テリブレをさんざんダシに使ってしまったが、
あえて結論を強引に導き出すとどうなるだろう?
テリブレに代表される直球勝負のあだ名たち。
それらが耳に飛び込んでくると、
「あぁ、コスタリカに来たんだなぁ」
と実感できる、ということなのであった。
強引すぎ? ヒドい?
テリブレのあだ名が似合うのは実は僕のほうかもしれない。
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