ジュリエット、恐るべし その4
ある夏の夜。
夕方から激しい雨が降り、雷が鳴り響いていた。
雷もうるさかったが、もっとうるさいのがおっさんの声だった。
「ジュリエット! どこだ! どこにいるんだ!」
どうやら、雷に怯えたジュリエットが脱走したらしい。
見た目は猛獣そのものの大型犬、ジュリエット。
しかし、身体のサイズと裏腹にものすごく気が小さい。
困ったものだ。
ジュリエットのいる庭は一応、金網などで囲われている。
でも、その気になればどこからでも抜けられるだろう。
そうとは感じていたが、脱走が現実に起こるとなると怖すぎる。
翌朝、また大音量に起こされて、こちらの睡眠はにわかに終了。
どうやら豪雨は明け方までにすっかり止んだらしい。
大音量はおっさんの声だ。
雷に怯えて脱走したジュリエットが戻ってきたらしい。
こちらも様子が気になって、窓のカーテンの隙間から覗いてみる。
すると、目に飛び込んできたのは恐ろしい光景。
ジュリエットは仰向けに地面に横たわっている。
その上のおっさんが馬乗りになっている。
そして、ジュリエットの顔を何発も殴っている。
「ジュリエット!お前ってやつは!」
「ここを出て、一体どこに行きたかったんだ!」
ボコボコにする。
そんな表現を時々聞く。
でも、それが実際にどういうことなのか見たことがなかった。
いま、ボコボコにする、という場面を初めて見てしまった。
見た目は大型猛獣のジュリエット。
しかし、おっさんの前ではまるで毛を刈られるときの羊。
雷はさぞ怖かっただろう。
そして、今、それよりもっと強い恐怖を味わっているのだろう。
ジュリエットの気持ちを想像せずにはいられなかった。
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