ジュリエット、恐るべし その5

寡黙なジュリエットと大音量のおっさん。

嫌でも聞こえてしまう彼と彼女のドラマ。

それが1年ほど続いた頃、その時は突然訪れた。


早朝、いつものように大音量で水と餌をやりに庭に出たおっさん。

しかし、様子が違う。

「おい、ジュリエット、起きろ!」

ペシペシ顔を叩いているのだろう。


「ジュリエット! どうしたんだ! 起きろ!」

おっさんの声がますます大きくなる。


どうやらジュリエットは死んでしまったらしい。


「おい、ジュリエット! 俺を置いていくのか!

「何で死んじゃうんだ!」

おっさんは絶叫。そして号泣。

こちらは寝床にいて、窓も閉まっている。

でも、おっさんの大音量はすべてを伝えてしまう。


そうか、ジュリエットは死んでしまったのか。

まだ寝ぼけた頭の僕も、可哀そうな気持ちになった。

感情の激しいおっさんとのジュリエットの一生。

こちらには分からないけど、幸せだったと信じたい。


おっさんは「オイオイオイ…」と号泣を続ける。


が、それを邪魔する別の音が入る。

プルプルプル…。携帯電話の着信音だ。

やたら大音量。おっさんの携帯しかありえない。

しかし、今のおっさんは感極まっている。

電話に出られるのだろうか?


すると、おっさんは電話に出た。

そして、極めて普通の口調で話し始めた。


「はい、おはようございます。いつもお世話になっております。」

「はい、分かりました。では10時に品物用意しておきます。」

「はい、では後ほどよろしくお願いします。失礼します。」


仕事関係の大事な連絡だったのだろう。

しかし、大号泣から一瞬で仕事モードに。

この変化も劇的であった。


電話を終えたおっさん。

また号泣に戻るのだろうか?

さすがにもう感情が落ち着いてしまったらしい。

静かになってしまった。


ジュリエットの没後は、おかげさまで少し安眠できるようになった。

でも、一抹の寂しさを感じたことも事実。

おっさんの心に空いた穴も大きかったことだろう。


その後、おっさんもその家を出て別のところに引っ越していった。

家の外も中も、結構荒れていたらしい。

まさに嵐のような隣人と隣獣であった。

20年経った今も忘れがたい記憶となっている。


※ギジ度80%


Giji Rockerのギジ録工房/Giji Rock Workshop

ギジ録。それは疑似的な議事録。 愛おしい時間の記憶。それを書き留めた記録。 100%正確とは限らない。 誇張や捏造が紛れているかもしれない。 だから議事録でなく、ギジ録。 ほぼ実話(99%)から、ほぼ作り話(1%)まで。 疑似度はそれぞれのギジ録ごとにまちまち。 アホらしいのは百も承知。 軽やかに笑い飛ばしてお許しください。 Gijiroku Rocks!