ザ・ジャングル

ギジ録 コスタリカ探訪 その12


2000年のコスタリカ初訪問は続く。

次に向かったのはラ・セルバ(La Selva)。

英語に訳せばThe Jungle。


1950年代にアメリカの研究者がフィールド調査地として整備を始めた。

「ライフゾーン」という概念を作ったホルドリッジという人だ。

その後、アメリカを中心に海外の大学が連合体を作った。

熱帯研究機関(Organization for Tropical Studies; OTS)。

スペイン語だとOrganizacion para Estudios Tropicales(OET; オエテ)。

研究や宿泊などのための設備が整えられている。

長期のフィールドワークを受け入れやすい拠点となっている。


熱帯雨林で動植物や生態系を調査するのは大変だ。

まず、険しい場所だとアクセスが難しい。

アクセスできても、寝泊りなど生活の場所がない。

現地でサンプルやデータを取っても整理や分析のための設備がない。

治安が悪ければ命掛けの訪問となる。…などなど。


その点、アクセスがよくて、各種設備も整った調査地は魅力的だ。

多くの研究者が半世紀以上にわたってLa Selvaで研究をおこなった。

研究のために貴重な場であること。それは価値。

なので、熱帯雨林の保全も担保される。一石二鳥。


それだけではない。

ここでは、環境教育やエコツーリズムも推進されてきた。


そのようなOETの仕組みにも興味があって訪問した。

こちらは研究者でなくエコツーリスト(?)の立場である。

1日、2日くらいの滞在ではちらっと垣間見るのがせいぜいだ。

そんな断片のなかで、20年以上経ったいまでも覚えていることがある。


それは、訪問客を案内するガイドの青年、ホルヘ(仮名)である。

「僕は地元の出身だ」と、20代の彼は流暢な英語で言った。

迷彩柄のズボンを履き、三脚を担ぎながら森に分け入る。

三脚には望遠鏡が載っている。

程よい説明とともにゆっくりトレイルを進む。


時々立ち止まって、三脚を地面に下ろす。

素早く望遠鏡を調整。

「覗いてごらん。」 そう我々を促す。

すると、樹上の猿をはじめ、(我々訪問者たちには)珍しい生き物が目に入る。


そして、(我々訪問者たちには)何も見えないところでまた立ち止まる。

森に向かって水平に望遠鏡を構える。

一体何を見つけたのだろうか?

望遠鏡が指す方向を肉眼で見る。

木がたくさん生えているだけで特に何もなさそうだけど…。

「覗いてごらん。」 彼の合図で望遠鏡に目を落とす。


目に入ってきたのは、木の枝の付け根でとぐろを巻くヘビ。

ほんの5メートルくらい先。

でも、地味な色なので森と紛れてまったく気付いていなかった。

ホルヘ、すげー!

彼の能力に驚かされ続けたツアーだった。


生物に関する知識。

この環境で育った彼とはいえ、それだけではない。

しっかり学んだからこその説明があった。

そして、英語力。

外国からの訪問者を受け入れるには必須だ。

彼の物腰はとってもゆったりとしていた。

プラビーダ感、たっぷり。


言葉の端々や表情から伝わってきたことがある。

それは、彼がガイドの仕事に誇りと生きがいを感じていることだ。

OETが築いてきたのは、研究施設だけではない。

地元の人たちが生き生きと働ける場と機会。

それも生み出されているのだという印象を受けた。


翌2001年にも再訪する機会があった。

でも、そのときのガイドは別の人だった。

その人もよかった。

コスタリカの大学で生態学を学んだのだろう。

丁寧できちんとした説明をしてくれた。

でも、今でも印象に強く残っているのはやっぱりホルヘだ。


余談だが、2001年に再訪したときの思い出。

それは、痛かったこと。

ガイドツアーの冒頭に受けた注意。

「この木に触らないこと。トゲトゲが刺さると抜けなくなるから。」

ほー、珍しい。

僕は木に近づいてトゲトゲの写真を撮った。


そのとき、あろうことか体勢を崩す。

木に思いっきり寄りかかってしまった。

無数のトゲトゲが腕に刺さる。

痛い!


トゲトゲが刺さると抜けない。

その説明が真実であること。

それを身をもって証明。


教訓:ジャングルで油断は禁物。痛い目に遭うから。


写真:見にくいけどハキリアリの巣の入り口(2001年にラ・セルバで撮影)。

文字通り、木の葉を小さく切り取って巣に運ぶ。

働きアリたちは赤っぽい色で目立たないが、たくさんの葉がゆらゆら地面を動く。

なので見つけることができる。興奮!

しかし地元の人には当たり前の光景。

「それがそんなに珍しいのか?」

こちらの興奮ぶりを珍しがっている。

Giji Rockerのギジ録工房/Giji Rock Workshop

ギジ録。それは疑似的な議事録。 愛おしい時間の記憶。それを書き留めた記録。 100%正確とは限らない。 誇張や捏造が紛れているかもしれない。 だから議事録でなく、ギジ録。 ほぼ実話(99%)から、ほぼ作り話(1%)まで。 疑似度はそれぞれのギジ録ごとにまちまち。 アホらしいのは百も承知。 軽やかに笑い飛ばしてお許しください。 Gijiroku Rocks!