それじゃ意味ねーじゃん
時期:1980年代初頭
場所:関東地方の某中学校
登場人物:ヨーク先輩(仮名)、ギジロッカー
僕は運動が決して得意ではない。
でも、好きだ。
なので、中学に入学するやいなや、ある運動部の門をたたいた。
憧れの「部活」生活が始まった。
その部活は厳しかった。
上下関係は厳格。
そして、練習も過酷。
基礎体力を高める訓練が多かった。
筋トレで体中がいつも痛かった。
そして、屋内の球技だけど外でよく走った。疲れた。
ある日のこと、いつものように外でしこたま走った。
そして、屋内に戻ってきた。
ようやく球を使った実践的な練習の時間だ。
1年生の我々は球拾いが大半とはいえ、基礎訓練よりずっとマシ。
屋外と屋内で靴が違うので、屋内に入るときに靴を履き替える。
僕は、外の靴を脱いで、内の靴の紐を結んでいた。
そのとき、ヨーク先輩が冷酷な表情で言った。
ヨ:なにモタモタしてんだよ。それじゃ意味ねーじゃん!
ギ:えっ? あっ、すみません。
ヨ:いちいち結び直してるようじゃ、紐靴の意味ねーだろ!
ギ:えっ? あっ、そうですね。すみません。
平謝りしつつ、僕の頭に符号が浮かんだ。
???
一瞬、意味が分かったような気がしたが、分からなかった。
その違和感は僕のなかにどういうわけか、ずっと残ったままだった。
忘れては、時々つい思い出してしまう、この会話と違和感。
40年の時を経て、僕はようやくその違和感の正体を解明できた。
ヨーク先輩にとって、紐靴とは、すぐ履けるように緩めておくものだったらしい。
一方、僕にとっては、毎回履くときに紐を結び直すこと。
それが紐靴の紐靴たる使い方だった。
そうすることによって、靴の中で足がしっかり固定されるから。
確かに普段履きの紐靴は紐を緩めに縛って着脱を簡単にすることもある。
でも、運動するときにはしっかり締めないと踏ん張れない。
だから、僕から見れば、運動するのに紐をきつく結ばないほうがおかしい。
そっちのほうがむしろ「意味ねーじゃん」なのだ。
だけど、ヨーク先輩から言われたとき、すぐには分からなかった。
そして、上記のように簡潔に(?)説明できるようになるまで長い時間がかかった。
その長さ、なんと40年!
俺の青春を返せ!
…なんて言うつもりはない。
別にこのことばかり毎日考えてたわけじゃないからね。
そして、このくらだない話はこうしてギジ録の一編となった。
これによって、僕のなかでようやく完結した。
「元を取った」感覚もある。自己満足に過ぎないが。
ヨーク先輩とはその後、完全に音信不通。
でも、あの当時の顔や姿は今もはっきり記憶に残っている。
その中学2年のままのヨーク先輩に対して、僕は心の中で叫ぶ。
「この件、やっとケリが付きましたよ!
あなたはもちろん全く覚えてないでしょうけど。
ありがとうございましたよ! 逆に。」
(ギジ度:95%)
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