タラマンカでのフィールドワーク 5
ギジ録 コスタリカ探訪 その35
夕食が終わると、1階の入り口側にあるリビングルーム的なスペースで皆くつろぐ。
ルーカスさんの定位置はハンモック。
ほかの人はソファや椅子に思い思いに座る。
定位置があるというほどではなさそう。
テレビのスイッチが入る。
小型の白黒テレビ。アンテナで受信しているらしい。
チャンネルによって画面の粗いものもある。
そのチャンネルのひとつを選び、夜6時台のニュース番組を見る。
それが終わると、テレノベラ(telenovela)が始まる。
英語だとソープオペラ(soap opera)と呼ばれるのだろうか。
いわゆるテレビの連続ドラマである。
日本で「連続テレビ小説」という表現があるが、テレノベラはそれにまさに近い。
このときは「夜のマリアナ」(Mariana de la Noche)という題名のドラマだった。
三女と四女が僕に説明してくれた。
「これはパナマのチャンネル。
ここはコスタリカよりパナマの放送のほうが電波がよく入るの。
このドラマは、コスタリカよりパナマのほうが先を進んでいる。
だから、サンホセの人たちはまだ私たちよりずっと前の回を見ているの。」
自慢げに語る彼女たちの笑顔が輝いていた。
テレノベラは主にメキシコやコロンビアで作られているものが放送されているそうだ。
残念ながら僕のスペイン語力では台詞をすべて理解することはできない。
でも、会話の強弱や効果音などはっきりした演出のおかげで何となく流れが分かる。
スペイン語の練習にもよさそうだと感じた。
夕食前に始めた洗濯は、この頃には終わっている。
高校生の3人は、自分たちの制服を洗濯機の脱水槽から取り出す。
そして、アイロンがけを始める。
彼らが手にするアイロンは、僕が見慣れた一般的なものだった。
しかし、コンセントにつなぐゲーブルが根本から切られていた。
では、どうやってアイロンがけをするのか?
答えはガスコンロでアイロンを熱するのであった。
弱火でガスを点け、鍋を熱するようにしばらくアイロンを置く。
頃合いを見計らって、アイロンを服にかける。
しばらくすると冷めてしまうのだろう。
再びガス台にアイロンを載せる。
その繰り返しなのであった。
故障した電気アイロンを使い続けているのか?
あるいは、電力節約のために最初からあえてガスを使っているのか?
うっかり聞きそびれてしまったのでいきさつは不明。
恐らく後者だろうというのが僕の想像だ。
昼間に太陽光で作った電気を蓄えて夜の照明などに使う。
でも、容量に限りがあるのですぐに尽きてしまうとのことだった。
アイロンのように熱に変えるにはかなりのエネルギーを使うはず。
なので、電気よりは豊富にあるガスを使っているのではないか?
そう僕は想像した。
思えば、日本でも昔は鉄のアイロンを火で熱して使っていたのかもしれない。
そういえば、アイロンって元々「鉄」の意味なのだった。
いまの自分にとって当たり前のことは、実はそれほど当たり前でない。
そんなことを思うひとつの場面であった。
こうした作業が一段落しテレノベラも終わるのが夜8時。
すると、いさぎよくテレビのスイッチが切られる。
歯磨きなど各自が根自宅を整え、おやすみの挨拶とともに2階に上がる。
オリビアさんが電池式の照明器具を渡してくれる。
夜に必要ならこれを使うようにとのことだった。
僕も、借りることになった1階の部屋で、蚊帳をくぐって床に就く。
こうして、滞在初日が静かに終わった。
写真:家の中にある電気系統の機器類(2012年撮影)。貴重な電力を大切に使っている。
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