タラマンカでのフィールドワーク 8
ギジ録 コスタリカ探訪 その38
前回はトウモロコシについて述べた。
トウモロコシが最も重要な作物の一つであることは間違いない。
しかし、それ以外にも多くの作物を育てている。
なんと、合計50種近くもの野菜や果樹があるとのこと。
家の周りで目に入るだけでも、熱帯の果樹がたくさんある。
パパイヤ、マンゴー、カカオ、パッションフルーツ、スターフルーツ、…。
初めてお目にかかる果物も多い。
例えば、鶏卵くらいの大きさの赤い実。
周囲は毛むくじゃら。
長さ1センチくらいの細い毛のようなものが覆っている。
いかにも熱帯っぽい派手な見た目。
触ってみると思いのほか表面は柔らかい。
指で皮を割くと、白く半透明の果肉が出てくる。
食べてみると、ライチのような味であった。
ランブータンという名前らしい。
それと似た果物がマンゴスタン。
外見はつるっとしたまん丸の表面で全然違う。
でも、皮を割いて出てくる果肉はランブータンと似ている。
にんにくの房と同じような感じで白っぽい果肉が放射状に入っている。
これがとてもおいしかった。
僕のなかでベストかもしれない。
珍しいところでは、カシューナッツの大きな木を初めて見た。
洋ナシのような果実があるが、それはなぜか食べない。
その実の先にに1つだけソラマメのように付くもう一つの実。
ボクシンググローブのようにくるっとした形。
そういえば、食べるカシューナッツの形と同じ。
この中身がナッツとして食べられることになる。
残念ながら僕は現地で食べる機会はなかった。
でも、自分の好きなカシューナッツがどのようにできるのかを見るのは新鮮だった。
1つの果実の1つの種。なので高価なのだろうということも何となく理解できた。
バナナだけでも色々な種類がある。
家の軒先には、採ってきたバナナが常に吊るしてある。
数十個の実のついた一房が2、3個ほど吊るされていることもあった。
日本で見慣れた細長い実の種類もあるし、短くて太いずんぐりした実の種類もある。
甘くない食用バナナ(プラタノ)もある。
売り物にしているわけでなく、自家消費のために栽培している。
バナナについてもう一つ。
牛がバナナを好きだなんて、僕には思いもよらなかった。
家の隣に牧場があり、牛が10頭ほど飼われていた。
「牛にバナナを見せてみな。」
そうルーカスさんに言われたことがある。
牛が食べるのは草。バナナなどに関心を示すまい。
僕の思い込みはすぐさま打ち砕かれた。
バナナを目にした牛は、すごい勢いで近寄ってきた。
「喜んで食べるから、あげてみな。」
ほんまかいな?
…ほんまやった。
大きく開いた口にバナナを入れてあげる。
すると、目をひん剥いて牛はむしゃむしゃとバナナを食べるのだった。
皮など剥かずにまるごとむしゃむしゃと。
栄養価の高いバナナは牛の好物でもあるとは。
生まれて初めて僕はそれを知ったのだった。
それはさておき、これだけ多くの品種を栽培することも驚きだ。
本格的すぎる家庭菜園のような感じだ。
滞在中、覚えきれないくらいの果物を食べさせてもらった。
また、ある時、喉が痛くなり体調が崩れ気味になった。
すると、庭先から採ってきたレモングラスを煮出した飲み物を作ってくれた。
このように、天然の薬の宝庫でもあることが分かった。
ルーカスさんは、歯磨き粉を使っていなかった時代からの知識を教えてくれた。
それは、肉を食べたあとは、ライムの汁で歯を磨くということだった。
殺菌効果で虫歯を防ぐという在来知かもしれない。
さて、数多くの作物の中で、僕に強い印象を残したものがある。
それを彼らはペヒバジェ(pejiballe)と呼んでいた。
調べてみると、英語ではPeach palmということでヤシの仲間のようだ。
実際、明らかにヤシの一種という見た目の木に成っていた。
その木は庭にあり、樹高は7メートルくらいだったかと思う。
その木のかなり高いところに実がたくさん成っている。
これを収穫するので手伝ってくれ、とある日、ルーカスに言われた。
作業の方法を説明してくれたが、よくわからない。
結局、僕はほとんど役立たずだったが、やっているのを見て初めて理解した。
まず、実の真下の部分に大きな袋を用意する。
これは、コーヒーや農作物などあらゆるものに使う袋だ。
昔は麻だったのだろうが、現代ではプラスティック製だ。
この丈夫な袋を平たくシート状にして、クッションに使う。
ペヒバジェの木の幹の腰くらいの高さのところに、袋の短い1辺(確か袋の口のほう)を縛り付ける。
反対側の1辺を自分が持つ。
ハンモックのようなクッションができ上がる。
地上側の準備ができたら、長い棒に括り付けたナタで実の詰まった房の根を切る。
地上4、5メートルの高さなので簡単ではない。
これをルーカスさんがやる。
房が落ちてきたときにクッションで受け止めるように、というのが僕に与えられた指示だった。
落下する重い房を受け止める際に、身体が引っ張られて木の幹にぶつかりがち。
ただし、幹は棘だらけなので気を付けるように、という注意だった。
身振り手振りでルーカスさんが動きかたを教えてくれた。
ただ、言葉だけでは完全に理解できなかった僕の様子を見て、結局ルーカスさんが両方の仕事を自分でやった。
実の詰まった房を切り落とす。
落ちそうになるギリギリの瞬間にクッションを構える。
見事に房をキャッチ。
そして、引っ張られた体を何とか幹と別の方向に逃がす。
幹にぶつかると、棘がたくさん体に刺さる悲劇が待ち受けるのだ。
(僕はぞれ以前にコスタリカの別の場所でこの悲劇を体験していた)
緊張感のある収穫作業だった。
その一房に数十個の実が付いている。
一つずつばらして、水洗い。
業務用のような大きなずん胴鍋いっぱいになる。
しばらく茹でると、食べることができる。
でんぷんが多いのだろうか。
腹持ちがよさそうだ。
甘味もあり、食べた感じがさつまいもに似ている気もする。
コーヒーと一緒におやつとして食べているようだった。
「おいしいね。」
鍋をのぞきに来た三女に僕は言った。
すると、彼女はこう返した。
「気がおかしいの? おいしいわけないじゃない!」
どうやら、ペヒバジェを彼女は嫌いなようだった。
命懸けの(?)収穫風景から、娘のこの反応までの一連のこと。
それによって、僕の記憶に強く刻まれる作物となった。
8年後の2012年に訪れた際には、この木は同じ場所には生えていなかった。
寿命が過ぎたのだろう。
なぜか、少し寂しい気持ちになったのを覚えている。
写真:外国から観光客が来るときに、歓迎のために設えた作物展示。
食用ではないがエリコニアなど美しい植物も飾られている。
最も数が多いのがランブータン。全員に食べてもらおうと考えたのだろう。
僕の好きなマンゴスタンは前列センターを飾っている(2004年撮影)。
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